ある盲目のおばあちゃんのお話を書きます。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)にお住まいだった93歳のおばあちゃん。
…ちなみに、サ高住とは 去年のブログ『サ高住ってどんなところ?』にも書きましたが
基本的には、介護が必要ではない(自分のことは自分で行うことができる)比較的お元気な高齢者が安心して生活できるサービスを受けられる賃貸住宅のことです。
このおばあちゃん、
6年前こちらに入居された時は目が見えていたそうですが、
数年後から徐々に光を失われ、全盲となってしまわれました。
それでも見えていた頃の建物内の記憶を頼りに、
シルバーカーを押しながら、自分の足でしっかり歩かれ
洗濯も自分で行い、食事も介助されることなく召し上がり、
目が見えていないとは思えないほど、身だしなみもキレイにされていました。
たまに外でひなたぼっこされていて、
「今日はイイお天気だね」
「キンモクセイの香りがするね」と、
目を細めるおばあちゃんとお話しする時間は
私にとっても楽しいひとときでした。
つい1ヶ月ほど前にお会いした時は
相変わらずシルバーカーを押して元気に歩いていらしたけど
夜中に体調が悪くなって、しばらく入院。
命に別状はなく、10日後に退院されましたが、
全く歩けず車椅子生活になるどころか
トイレでの立ち上がりも、ベッドに横になるのも、
自力では出来なくなってしまいました。
サ高住のお部屋で一人で生活するのは当然厳しく、
併設のデイサービスにある休憩用ベッドで終日過ごすことに…。
先日、おばあちゃんに1週間ぶりにお会いして絶句…。
身体と心の急激な衰えが、一目見ただけで分かりました。
表情も喋り方も手足の動きも別人のようで。
あんなに身だしなみをきちんとされていたのに、
あんなに楽しそうに饒舌にお話しされていたのに、
あんなにしっかりした足取りで歩かれていたのに。。。
ショックでしたが、あえて明るく
「Iさん、おはようございます♪
今日はとてもイイお天気ですよ(^^)」と声を掛けたら
「いいお天気っても、私には全然分からないよ。
雨でも晴れでもおんなじだよ。」とのお返事(:_;)
もう頭の中に「イイお天気」が浮かばないし、
視覚以外の感覚機能も低下しているんだと思います。
生きる力と生きようとする気持ちが喪失してしまった
…と感じました。
その後、ボサボサになってしまった髪を整え、
温かいタオルでお顔と手を拭き、
保湿クリームをつけてちょっとマッサージしたら
「あぁ気持ちがいい♪♪♪体がポカポカしてきたよ。」と(^^)
甘いホットドリンクを飲みながら、
少しだけ以前のおばあちゃんに戻ったような口調でお話ししてくださいました。
もうね、私は充分生きてきたよ。
そろそろなんだろうな~って自分で分かるの。
生きてく楽しみも何にも無くなっちゃったからね。
つらいよ~。目が見えなくなった時よりつらいよ。
これ以上、人様にお世話になるなんてイヤなのよ。
私にもね、幸せだな~って思う時期はあったんだよ。
それで充分。私は頑張ってきたんだから。
こう聞いて
「そんなこと言わないで。もっと頑張りましょうよ。」
なんて誰が言えようか・・・。
おばあちゃんの言葉ひとつひとつに「うん、うん」と
頷くことしかできませんでした。
お子さまに恵まれず、30年以上前にご主人も亡くなり
天涯孤独のおばあちゃん。
…ちなみに…
このご主人がギャンブル好きでお金に苦労させられて
何度も家を出ようと思っているうちに
ご主人が大病を患われ、最期まで看取られたそうです。
その後ひとりになった時が一番幸せだったと笑って話すおばあちゃんってスゴイ(´艸`*)
終活なんて、してこなかったかもしれない。
元気なまま、ぽっくり逝けることを望んでいたかもしれない。
今のこの状態をきっと予測していなかったと思う。
でも、このおばあちゃんの生きてきた証は
少なくとも私や施設のスタッフの皆さんがしっかり感じ取っています。
たくさんの困難や辛いことを受け入れ、耐えて、
その中でも生きる楽しみを見つけて、幸せを感じ、
懸命に生きてこられた93歳のおばあちゃんのことが
私は大好きだし、この日の会話をずっと忘れない。
介護士としては、
高齢者の生きる活力のもととなるようなケアを行うことが大切だと思っていますが、
このおばあちゃんには、おばあちゃんが望むとおり、
穏やかにその時を迎えられることを祈っています。
あ~、お花好きなおばあちゃんに
今年の紫陽花を見せてあげたいな。心の目で・・・。
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